アンコールはリビングで
「……なぁ。風呂、一緒に入るぞ」

背中からすっぽりと抱きしめられ、耳元で甘く低い声が囁かれる。
首筋にすりすりと顔を擦り付けてくるその大型犬のような仕草に、私はドキリとしながらも少し慌てて振り返った。

「えっ、でも湊、疲れてるでしょ? 今日は一人でゆっくり浸かってきなよ。パパッと済ませた方が……」

(……早く、あのソファの裏に隠した紙袋を渡したいし……!)

私が内心ソワソワしながら提案すると、湊は不満げに琥珀色の瞳を細め、私の腰に回した腕の力をぐっと強めた。

「は? 疲れてるから、凪と一緒に入って癒やされんだろうが。……それとも、俺と入るの嫌なのかよ」

「嫌じゃないけどっ……」

「じゃあ決定。ほら、行くぞ」

有無を言わさぬ俺様な口調で私の手を引き、湊はずんずんとバスルームへと向かっていく。

これ以上抵抗しても無駄だと悟った私は、呆れながらも大人しく彼に連行される道を選んだ。

お互いに『この後に渡したいものがある』という高揚感を、胸の内に隠し持ったまま。

甘い夜は、まだ始まったばかりだ。
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