アンコールはリビングで
2. 黒いスウェットと、捨てられない記憶

丁寧にリボンを解き、薄紙を開く。

中から出てきたのは、最高級のコットンシルク素材で仕立てられた、シンプルなハイブランドの黒いスウェットだった。

無駄なロゴなどは一切入っていないが、一目見ただけでその生地の上質さが伝わってくる。

「……これ」

「最近、湊がずっと着てるそのグレーのスウェット、少し毛玉が目立ってきたでしょ? これから家でも曲作ったりするだろうし、少しでもリラックスできるようにと思って」

私の言葉に、湊はハッとしたように手元の黒いスウェットと、今自分が着ている着古したグレーのスウェットを交互に見比べた。

そして、堪えきれないようにふっと口角を上げ、目尻を優しく下げた。

「……お前、俺がこれ気に入ってるからって、わざわざ似たような極上のやつ探してくれたのかよ」

「うん。……気に入って、くれる?」

私が上目遣いで尋ねると、湊は「当たり前だろ」と短く答え、着ていたグレーのスウェットをその場でバサリと脱ぎ捨てた。

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