アンコールはリビングで
「は? なに言ってんの」

湊が私の手から、古いグレーのスウェットをひったくるように素早く奪い返した。
その顔は、まるでお気に入りのおもちゃを取り上げられそうになった子どものように、本気で焦っている。

「えっ……だって、毛玉もついてるし……袖口も少しヨレてきてるよ?」

「捨てられるわけねぇだろ。これは、凪が初めて俺の誕生日にくれたもんだぞ」

彼は、新しい極上の黒スウェットを着たまま、ヨレヨレの古いグレーのスウェットを胸に抱え込み、絶対に渡さないとばかりに睨みつけてきた。

「……いや、でもそれ、もう何年も着倒したし……」

「気合い入れたいレコーディングの時とかはこっちの黒着るけど。こっちのグレーも家用に絶対捨てねぇからな。まだまだ現役だし。ていうか、俺の匂いと凪の匂いが染み付いてて一番落ち着くんだよ」

「……もう。国民的スターなのに、物持ち良すぎでしょ」

「うるせぇ。俺は、一度手に入れたもんは何があっても絶対に手放さねぇの。お前からのプレゼントなら、たとえボロ雑巾になっても墓まで持っていくわ」

呆れる私をよそに、彼は古いスウェットをこれでもかというほど丁寧に畳み、ソファの隅の自分の定位置にそっと置いた。

「ボロ雑巾になっても」なんて極端な言い回しだけれど、その根底にあるのは、私という存在へのどうしようもない執着だ。

そんな彼の激重な愛情が、なんだかんだ言ってたっぷり甘くて、私は思わず頬を緩ませた。

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