アンコールはリビングで
(……あ)

その瞬間、彼が並べ立てた完璧なロジックの裏にある、本当の感情が見えた気がした。

去年の夏にデビューを決意して以来、会社に辞意を悟られないよう密かに引き継ぎ資料を作り込みながら、自身の担当案件もきっちり年度内に終わらせようと極限まで多忙を極め、なかなか会えずにすれ違っていた数ヶ月。

そしてこれから、彼が「芸能界」という遠い世界へ羽ばたいていく未来。

(この子……本当は、寂しくてたまらないんだ)

もしデビューして忙しくなって、物理的にも会えなくなってしまったら、自然消滅してしまうかもしれない。
ようやく手に入れた私、「凪」という居場所を、一秒たりとも離したくない。

そんな、年下らしい、子供のような「不安」が、透き通った瞳の奥で悲鳴を上げているのだ。

それを隠すために、彼は必死に「デベロッパーの鎧」を着込んで、理論武装して、私を繋ぎ止めようとしている。

そう思ったら、なんだか彼のことが無性に愛おしくてたまらなくなってしまった。

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