アンコールはリビングで
「……よかった……っ」

さっきまでの「冷徹なデベロッパー」はどこへやら。

安心しきって脱力しているその横顔は、なんだか大きな捨て犬を拾った時のような、守ってあげたくなる愛おしさに満ちていた。

「……断られたらどうしようかと……マジで心臓止まるかと……」

「ふふ、そんなに心配しなくても離れないよ」

私が彼のサラサラの髪を撫でると、早瀬くんは私の腰に腕を回し、顔が見えない体勢のまま、ぽつりと呟いた。

「……絶対、離さねぇからな」

低く、微かに聞こえたその声は、いつもの丁寧な敬語とは違う、ひどく熱っぽい響きを含んでいた気がした。

「……え? 早瀬くん、今なんて……?」

「……え?」

私が聞き返すと、彼はパッと顔を上げ、いつもの爽やかな笑顔――私の大好きな、年下の「早瀬くん」の笑顔を浮かべた。

「いえ! 何も言ってないですよ? ……凪さんと一緒に住めるなんて、本当に嬉しいなって」

「……そっか。私も楽しみだよ」

綺麗に隠されたその本音に、この時の私はまだ気づいていなかった。

これが、私たちが「リビング」という聖域を手に入れるための、最初の設計図だった。
< 325 / 638 >

この作品をシェア

pagetop