アンコールはリビングで
ある夜の電話。

今日の出来事や食べたものなど、他愛のない会話がひとしきり終わったタイミングで、俺は居住まいを正し、スマホ越しに切り出した。

「……あの、凪さん」

『ん? 改まってどうしたの? 早瀬くん』

電話の向こうの、少し眠たげで柔らかい声。

それだけで胸の奥がキュンと締め付けられるのを堪え、俺は努めて冷静な「デベロッパーの声」を作った。

「プレゼンの時はああ言いましたが……俺も、最低限の常識は持ち合わせています。他人から見たらこの同棲はあまりに急ですし……あ、いや、俺としては全然急じゃなくて、相当前からずっとこうしたかったんすけど……じゃなくて」

焦って余計な本音(激重)が漏れそうになり、咳払いで誤魔化す。

「……凪さんのご両親に、心配をかけたくないんです。同棲を始める前に、一度ご実家にご挨拶に伺ってもいいですか?」

『え! うちの実家に!?』

凪さんが素っ頓狂な声を上げるのが聞こえた。

『べ、別にいいよー! そこまでしなくても! 私も、いい大人だし、家を出てる社会人の娘だよ? どこに住むのも自由にしなって思ってるはずだし……』

「うーん……凪さんにはそう言われると思ったんですけど」

彼女の反応は想定内だ。
だが、俺には譲れない理由があった。

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