アンコールはリビングで
玄関先で交わされる、何の変哲もない家族の会話。
その短いやり取りだけで、この家がどれだけ温かい愛情で満たされているかが痛いほど伝わってくる。

ああ、この優しくて芯の強い凪さんは、この場所で、この人たちに愛されて育ったからこそ、こんなにも素敵なんだ。

自分にはない、温かい家族の風景を目の当たりにして、俺はストンと腑に落ちた気がした。

そんなことを考えていると、凪さんのお母さんが俺に気づき、パッと目を輝かせた。

「あら! あなたが凪から聞いていた早瀬くんね? 初めまして」

「……初めまして。早瀬湊と申します。本日はお休みのところ、お時間をいただきありがとうございます」

俺は直角に近い最敬礼で頭を下げた。

第一印象が全てだ。ここでの振る舞いが、今後の同棲生活、ひいては結婚生活の命運を握っているといっても過言ではない。

「ふふ、そんなに堅くならなくていいのよ。こんな玄関先で立ち話もなんだから……さ、上がって上がって。どうぞ」

「お邪魔します……」

促されるままに、俺は緊張で手と足が同時に出そうになるのを必死に堪えながら、凪さんの実家のリビングへと足を踏み入れた
< 332 / 628 >

この作品をシェア

pagetop