アンコールはリビングで
「さて……早瀬くんと言ったね」

凪さんのお父さんが紅茶を一口飲み、穏やかだが芯のある声で切り出した。

「単刀直入に聞くが、凪とはいつ頃から知り合ったんだい? 娘からは『仕事関係』としか聞いていないんだが」

俺は居住まいを正し、背筋を伸ばしてお父さんの目を見つめ返した。

ここだ。ここで誠実さを見せられるかどうかが、すべての勝負だ。

「はい。実は、知り合ったのは一昨年の4月なんです。僕が担当していた案件で、ディレクターとして現場にいらっしゃった凪さんとお会いして……。その後、僕の路上ライブを凪さんが聴いてくれたのをきっかけに、お互いの共通の趣味である『音楽』を通じて、親しくさせていただくようになりました」

嘘は言っていない。
ただ、「俺の方がどっぷり凪さんにハマって、ずっと片思いを続けてきた」という事実は、ひとまず胸の奥にしまっておく。

「お付き合いを始めたのは、正直に申し上げますと最近のことです。ですが……」

俺は隣に座る凪さんを一瞬だけ見て、再びお父さんに向き直った。

< 334 / 616 >

この作品をシェア

pagetop