アンコールはリビングで
2. 共通言語と、ジャズの夜明け

そこからは、凪さんのお母さんが助け舟を出すように話題を変えてくれた。

「それにしても早瀬くん、音楽のお仕事をしてるんですって? すごいわねぇ」

「いえ、まだデビュー前で……これから本格的に活動を始めるところなんです」

「あら謙遜して。私ね、最近のJ-Popもよく聴くのよ。ほら、あの『スノードロップ』っていうバンドの……」

お母さんが楽しそうに話題のバンド名を挙げ、俺も「ああ、あの曲はベースラインがかっこいいっすよね」と、つい素の口調混じりで返してしまう。

音楽の話なら、いくらでも広げられる。俺の得意分野だ。

「……音楽か」

ふと、それまで黙って聞いていた凪さんのお父さんが呟いた。
そして、俺が持参したウイスキーの箱を愛おしそうに撫でながら、ニヤリと笑った。

「早瀬くん。……これ、せっかくだから一本開けてもいいかな?」

「えっ、今ですか? もちろんです!」

「よし。じゃあグラスを持ってこよう。……ついでに、ちょっと場所を変えないか?」

お父さんが立ち上がり、俺を手招きした。

凪さんが「え、お父さんどこ行くの?」と驚く中、俺は導かれるままに、リビングの奥にある防音ドアの向こうへと足を踏み入れた。

案内されたのは、『書斎』という名の音楽部屋だった。
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