アンコールはリビングで
(……どうしよう。私、完全にタイミング見失ってる……!)
段ボールから食器を取り出しながら、私は一人で焦っていた。
事の発端は、数日前の私の実家への挨拶だ。
あの日、すっかり早瀬くんと意気投合した私の父はもちろん、母でさえも帰り際にあっさりと彼を「湊くん」と下の名前で呼んでいた。
なのに、肝心の『彼女』である私が、未だに「早瀬くん」と、苗字+くん付けで呼んでいるのだ。
付き合い始めたとはいえ、元々は仕事相手のデベロッパーと、受注側のディレクター。
その時の「早瀬くん」という呼び方が染み付いてしまっていて、切り替えるタイミングが全く掴めないまま、今日という同棲初日を迎えてしまった。
(急に『湊』って言うのも変だし……湊くん? いや、湊? ……うわぁぁ、なんかこっちが恥ずかしい!)
「あの、凪さん? 大丈夫ですか? 顔赤いですよ」
「えっ!? あ、ううん! なんでもない! ちょっと暑いなって思っただけで……っ」
「そうですか? 無理しないで、適当に休んでてくださいね」
優しく気遣ってくれる彼に、私は引き攣った愛想笑いを返すのが精一杯だった。
頭の中で「みなとくん、みなと……」とひたすら名前のシミュレーションを繰り返しながら、私は一人でドギマギと引っ越し作業をこなしていった。
段ボールから食器を取り出しながら、私は一人で焦っていた。
事の発端は、数日前の私の実家への挨拶だ。
あの日、すっかり早瀬くんと意気投合した私の父はもちろん、母でさえも帰り際にあっさりと彼を「湊くん」と下の名前で呼んでいた。
なのに、肝心の『彼女』である私が、未だに「早瀬くん」と、苗字+くん付けで呼んでいるのだ。
付き合い始めたとはいえ、元々は仕事相手のデベロッパーと、受注側のディレクター。
その時の「早瀬くん」という呼び方が染み付いてしまっていて、切り替えるタイミングが全く掴めないまま、今日という同棲初日を迎えてしまった。
(急に『湊』って言うのも変だし……湊くん? いや、湊? ……うわぁぁ、なんかこっちが恥ずかしい!)
「あの、凪さん? 大丈夫ですか? 顔赤いですよ」
「えっ!? あ、ううん! なんでもない! ちょっと暑いなって思っただけで……っ」
「そうですか? 無理しないで、適当に休んでてくださいね」
優しく気遣ってくれる彼に、私は引き攣った愛想笑いを返すのが精一杯だった。
頭の中で「みなとくん、みなと……」とひたすら名前のシミュレーションを繰り返しながら、私は一人でドギマギと引っ越し作業をこなしていった。