アンコールはリビングで
2. 極上のBGMと、甘い引力

すっかり日が暮れた頃、ようやく引っ越し業者が引き上げ、新居に二人きりの静寂が訪れた。

「ふぅ……とりあえず、寝る場所と生活動線だけは確保できたね」

私が額の汗を拭うと、隣にいた早瀬くんが、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出して渡してくれた。

「お疲れ様です、凪さん。無理しないで、残りの荷解きは明日やりましょう」

「あ、ありがとう、早瀬くん」

私たちは、とりあえずテレビの前に設置したばかりのソファに、二人並んで腰を下ろした。

まだ周りには開けられていない段ボールの山があるけれど、この部屋の空気は、間違いなく「私たちの家」のものになりつつある。

「……なんか、まだ実感湧かないっすね」

早瀬くんがミネラルウォーターをごくりと飲み、ふぅと息を吐く。

その横顔を眺めながら、私はまたしても頭の中で(今だ! ここで「そうだね、湊くん」って言うんだ私……!)とシミュレーションをしていた。

けれど、私が口を開くより先に、彼がふと立ち上がった。

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