アンコールはリビングで
あのホワイトデーの記念日から、カレンダーは恐ろしい早さで捲られていった。

冬に完成したアルバムを引っ提げた6月の全国ツアーと、その直前にリリース予定の新曲の制作、そしてそれに伴う撮影など。
ドラマの撮影こそクランクアップを迎えたものの、湊のスケジュールは常軌を逸するほどの過密さになっていた。

毎日のように帰宅は深夜を回り、朝は私が起きる前に家を出ていく。

土日で奇跡的に休みが被ったとしても、彼は泥のように昼過ぎまで眠りこけていて、まともに会話をする時間すらない。

恒例だった火曜日22時の湊主演ドラマ『嘘つきAIと恋のバグ』の視聴会も、最近は二人ともギリギリに帰宅してなんとかテレビの前に座る有様で、ひどい時には、湊があまりの疲労で私の肩に寄りかかったままウトウトと寝落ちしてしまうこともあった。

以前の私なら、一人の夜が続いたとしても、ここまで落ち込むことはなかったはずだ。

『自立した社会人として、一人の時間の潰し方なんていくらでも知っている』と、少し前の私なら、本気でそう思っていた。

けれど……今は違う。

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