アンコールはリビングで
3. 謎の天才ギタリストと、温度のない音

高校生になり声が落ち着くと、彼は弾き語りを始めたという。
けれど、圧倒的な技術と音楽への異常な熱量を持つ彼は、文化祭のバンドでも周囲と温度差が生まれ、孤立していった。

『一人でどこまでやれるか、そればかり考えていましたね。DTM(作曲ソフト)を触り始めたのもその頃です』

そして、大学時代。

軽音部にも馴染めず退部した19歳の湊は、動画投稿サイトに「手元だけ」を映したギターの演奏動画をアップし始めた。

テレビの画面に、当時の実際の動画が流れる。
顔は映っていない。
ただ、美しい指先だけが、人間離れした速度と正確さで複雑な旋律を弾きこなしている。

当時のネットの反応が画面にテロップで踊る。
『謎の天才ギタリスト現る』『技術ヤバすぎ』。

しかし、同時にこんな言葉も並んでいた。
『上手いけど、機械みたい』『人間味がないんだよな』。

画面の中の湊が、少しだけ伏し目がちに笑った。

『……技術だけではダメなのだと、あの時痛感しました。どれだけ速く弾けても、正確に弾けても、聴く人の心には届かない。……完全に、壁にぶつかっていましたね』

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