アンコールはリビングで
4. 宿った「熱」と、戦いの歴史

そこから、彼の社会人時代——白井不動産に入社してからの日々が語られ始めた。

激務の傍ら、鬱屈とした感情を吐き出すように始めた路上ライブ。
動画サイトにも弾き語りをアップし始めたが、相変わらず顔は隠したままだった。

けれど、番組のトーンがここでふっと変わった。

彼が社会人になって二年目の、秋も深まった頃。当時の動画が画面に映し出される。

『……この頃からですかね。僕の歌が、少し変わったなと思ったのは』

(あ……)

私は息を呑んだ。

その時期は、まさに私がガレリアプラザの案件で彼と出会い、そしてあの非常階段で彼の歌を聴いた時期とピタリと重なっている。

『技術を見せつけるのではなくて……ただ、誰かに届いてほしかった。自分の不甲斐なさとか、どうしようもない感情を……聞いてほしかったのだと思います』

湊の言葉に合わせるように、ナレーションが力強く告げる。

「彼の音楽に、決定的な『熱』が宿った瞬間だった。そして、とある合同ライブでの動画が拡散され、彼の運命は大きく動き出す——」

そこからの快進撃は、私もよく知っている。

動画が注目を集めてからほどなくして、島崎さんに見出され、彼の誕生月でもある6月にメジャーデビュー。

その際、これまで顔出しをしていなかった「超絶技巧の天才ギタリスト」の正体が、この圧倒的なルックスを持つ早瀬湊だったという事実が明かされ、日本中を巻き込む特大のバズを引き起こしたのだと、番組は華々しく締めくくられた。

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