アンコールはリビングで
同時に、胸の奥がチクリと痛んだ。
彼は昔から、自分の限界が来るまで誰にも頼らず、一人で壁にぶつかり続ける不器用なところがある。

この特番で語られていた過去の軌跡が、今の彼の状況と重なって見えたのだ。

今、彼が抱えている全国ツアーや新曲制作のプレッシャー。それはきっと、彼がこれまで経験してきた壁の中でも、群を抜いて高く険しいもののはずだ。

(湊……ちゃんと周りの人に、私に、頼ってくれてるかな……)

「……早く、帰ってこないかなぁ……」

完全に冷めてしまったスープの入った鍋を見つめ、私はぽつりと呟いた。
疲労回復のために生姜をたっぷり効かせたこのスープを、早く彼に温め直して食べさせてあげたい。

テレビの中の輝かしい「スター・早瀬湊」ではなく、ただの「湊」に会いたい。

強気で、少しワガママで、でも誰よりも私の前でだけ無防備な顔を見せてくれる彼を、今すぐこの腕で抱きしめて、少しでも彼の背負っている重さを軽くしてあげたかった。

時計の針が、深夜23時45分を回る。

静寂に包まれたリビングで、私はただじっと、彼が帰ってくる足音を待ち続けていた。
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