アンコールはリビングで

23 朝の置き手紙

1. 限界の輪郭と、隠された熱

ガチャリ。
深夜の静寂を破って、玄関のドアが開く音がした。

「……あ、今日は日付超えなかった」

時計の針は23時50分。いつもよりほんの少しだけ早い帰宅に、私はホッと胸を撫で下ろしてソファから立ち上がった。

足早に廊下を抜け、玄関へと向かう。

「おかえり、湊」

そう声をかけて出迎えた瞬間、私は息を呑んだ。

「……ただいま」

そこに立っていたのは、テレビの中で何万人もの観客を熱狂させていた「スター」の輝きを完全に失った、ただの疲れ果てた男だった。

いつも綺麗にセットされている髪は乱れ、肩は重く沈み込んでいる。
何より、マスク越しでも分かるほど顔色が悪く、目の下にはうっすらとクマが浮かんでいた。

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