アンコールはリビングで
(……あれ?)

その時、服越しに伝わってくる彼の体温が、いつもよりほんの少しだけ高く感じた。
単なる疲労の熱さとも違う、内側から燻るような微熱の気配だ。

「……湊、身体すこし熱いよ。もしかして、熱あるんじゃ……」

私が彼の背中に回した手を離し、額に触れようとした、その瞬間だった。

「……触んな」

湊は私の両手首を掴み、そのまま自分の腰に強く巻きつけ直させた。

「え……?」

「……たぶん、少し熱ある。……でも、熱あるって自覚したら、俺、明日絶対動けなくなる」

「湊……」

「……明日のジャケット撮影だけは、絶対穴開けらんねぇんだよ。……だから、お願い」

そして、私がどこかへ消えてしまうのを恐れるかのように、骨が軋むほどきつく私を抱きすくめた。

「……っ、痛いよ、湊……っ」

「……5分だけ。今はただ……このまま、充電させて」

耳元で震えるように囁かれた声に、私はハッとして身動きを止めた。

あんなに苦しそう様子で、自ら「熱がある」と認めたのに。それでも彼は、絶対にここで倒れることだけは固く拒絶している。

明日はどうしても外せない、新曲のジャケット撮影が控えていると言っていた。
きっとなんとしてでも、そこまでは気力で耐え抜くつもりなのだ。

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