アンコールはリビングで
「……うん。温め直して食べてね」

私が頷くと、湊は少しだけホッとしたように微笑んだ。
でも、その笑顔もどこか引き攣っていて、無理をしているのは明白だった。

「……湊、ほんと無理、し過ぎないでね……? ツアーも新曲も大事だけど、湊の身体が一番なんだから」

私が心配を口にすると、湊は私の頬を指先で軽く弾いた。

「……何言ってんだよ。心配すんな」

彼は意図的に口角を上げ、いつもの「俺様」なトーンを少しだけ引っ張り出してきた。

「俺を誰だと思ってんだ?これくらい余裕だわ……凪が待っててくれるなら、いくらでも戦えるから」

何を安心させようとしているのか。
見え透いた強がりに、胸が締め付けられる。

「余裕なわけないじゃない」と言い返したかったけれど、彼が今、その強がりだけでギリギリの精神を保っているのだとしたら、私がそれを折ってはいけない気がした。

「……うん。お風呂、沸いてるから。入っておいで」

「ん。……おやすみ、凪」

重い足取りでバスルームへと向かう彼の背中を、私は祈るような気持ちで見送った。

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