アンコールはリビングで
(……ああ)

視界が、一瞬で滲む。
私が昨日からずっと感じていた「彼が限界をひた隠しにする不自然さ」の理由。

玄関先で、限界を迎えてなお「絶対に倒れない」と壁に縋り付いていた、あの異様な執念の正体。

そのすべての点と点が、彼の一言で一気に線になって繋がった。

(……そうか。湊は)

去年の夏。

仕事のプレッシャーで限界を超え、私が家の玄関で倒れてしまったあの夜。

病院のベッドで青ざめ、自分を責めて、今にも泣き崩れそうな顔をしていた彼の姿がフラッシュバックする。

湊は、あの時の自分と『同じ思い』を、絶対に私にさせないために。
私が「自分の力不足で湊を倒れさせてしまった」と自分を責めて傷つくことがないように。

だから彼は、こんな限界を超えてまで、必死に熱にも耐え、自分の足で立ち続けていたのだ。

「……っ、湊の、ばか……っ」

視界から溢れ出した涙が、彼の手を包み込む私の手の甲にポタポタと落ちる。

彼はどこまでも不器用で、そして……痛いほどに、私のことを大切に想ってくれていた。

「……謝らないで、湊。……もう、十分すぎるくらい頑張ったんだから、安心して休んで……っ」

私は彼の熱い手に額を押し当てながら、声を出して泣いた。

熱に浮かされて眠りに落ちていく彼の静かな寝息だけが、涙に暮れる夜の寝室に優しく響いていた。
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