アンコールはリビングで

25 特等席のぬくもり

1. 境界線の夜と、繋いだ手

(……あの時の湊の絶望と恐怖を、私は痛いほど知っている)

涙で濡れた頬を乱暴に手の甲で拭い、私は静かな寝室で、泥のように眠る彼の寝顔を見つめ直した。

規則正しい、少し荒い寝息。熱を持った彼の手は、私の両手の中にすっぽりと収まっている。

限界を迎えてなお「自分の前で倒れること」をあれほどまでに恐れ、拒絶した彼。

去年の夏。

私が過労で倒れ、病院のベッドで目を覚ました時、彼は『俺が気づけなかったせいだ』と今にも泣き崩れそうな顔で自分を呪っていた。

私の独りよがりな自己犠牲が、彼にどれほどの恐怖と無力感を植え付けてしまったか。あの日の彼の絶望を、私は一生忘れることはないだろう。

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