アンコールはリビングで
(だからこそ、彼は今日、あの玄関で……ギリギリのところで踏みとどまってくれたんだ)

私の心を傷つけないために。

あの夏の失敗を繰り返さないよう、彼は彼なりに、不器用ながらも私にちゃんと「SOSを出し、寄りかかる」ことを選んでくれたのだ。

熱に浮かされて眠る彼の汗を、固く絞った濡れタオルで優しく拭いながら、私はそっと彼の大きな手を握り直した。

「……去年の私みたいに、限界を超えて完全に倒れちゃう前に。……ちゃんと、私を頼ってくれて。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」

静かな寝室に、涙声が溶けていく。

私がそう呟き、彼の手の甲に自分の頬を擦り寄せた、その時だった。

「……なんで、泣いてんの……」

掠れた、ひどく甘ったるい声が降ってきた。

ハッとして顔を上げると、いつの間にか目を覚ましていた湊が、熱っぽく潤んだ琥珀色の瞳で私を見つめていた。

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