アンコールはリビングで
「……分かった。私がやっとくよ」

「えっ、いいんですか!?」

「その代わり、明日の朝イチでコーヒー奢ってね。カフェインレスのやつ」

「はいっ! ありがとうございます! 神様です先輩!!」

後輩は何度も頭を下げ、風のように去っていった。

「……神様、か」

私は一人、苦笑いを漏らした。

私の家には、世間から正真正銘の「神」と崇められている男がいる。
片や、数万人の心を震わせる「音楽の神」。
片や、後輩の残業を肩代わりする「都合のいい神」。

同じ「神様」でも、随分とニュアンスが違うものだ。

「……ま、こっちの神様も悪くないか」

残されたのは私と、無慈悲なデータの山。
私は一つ大きなため息をつき、再びパソコンのマウスを握り直した。

(……ごめん湊。1時間、いや、意地でも45分で終わらせる!)

私は「彼女モード」への切り替えを諦め、再び「戦う会社員」の顔に戻った。
< 4 / 796 >

この作品をシェア

pagetop