アンコールはリビングで
3. スタジオの貴公子

同時刻、都内某所のレコーディングスタジオ。
防音扉で閉ざされた空間には、ピンと張り詰めた空気が漂っていた。

モニターの前に座るエンジニア、後ろで腕を組むプロデューサーたち。
そしてブースの中、マイクの前に立つ早瀬湊。

今の彼は、今朝味噌汁をすすっていた男とは別人のような顔をしていた。
ヘッドフォンを押さえ、目を閉じて音の世界に没入している。

「……ここ、もうワンテイクいいですか」

彼が静かに言った。その声は、マイクを通さずとも透き通るように美しい。

ピアノの旋律が流れ出し、彼が歌い出す。
その声は、聴く者すべての心を震わせるような、圧倒的な「切なさ」と「色気」を帯びていた。

ブースの外にいるスタッフたちが、思わず息を呑む。

これが、「音楽の神に愛された男」の実力。
一曲歌い終えると、スタジオ内には一瞬の静寂の後、「OKです!」という明るい声が響いた。

彼がヘッドフォンを外し、ふぅーっと長く息を吐く。

「お疲れ様でしたー」

ブースから出てきた彼は、スタッフたちに丁寧に頭を下げた。

「素晴らしいテイクでした、早瀬さん」

「いえ、皆さんのおかげです。……あそこのアレンジ、変えて正解でしたね」

彼は柔らかく微笑んだ。

一人称は「僕」。言葉遣いは完璧な敬語。
どこからどう見ても、品行方正な国民的スターだ。

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