アンコールはリビングで
(……俺は、ただの同居人で。彼氏でしかない)

こんなに凪のことを愛していて、毎日一緒に暮らしていて、誰よりも彼女のことを心配しているのに。
いざという命の危機に直面した時、俺には何の法的な権限もない。

もし俺が、ただの彼氏じゃなくて……『夫』だったら。
迷わずすべての書類にサインをして、すべての責任を背負って、凪を守り抜けるのに。

己の無力さと、社会的な立場の壁に、激しい歯痒さと悔しさが込み上げてくる。

(……それに、凪の両親にも連絡しなきゃなんねぇ……)

久しぶりの連絡が、大切な娘が過労で倒れて救急搬送されたなんて最悪の報告だなんて、不甲斐なさすぎる。

『――凪さんを、必ず幸せにします』

同棲の挨拶の時、ご両親のまっすぐな目を見て、あんなに自信満々に誓ったのに。
彼女を限界まで追い込んでしまった今、本当に……どの面下げて会えばいいんだよ。

< 403 / 638 >

この作品をシェア

pagetop