アンコールはリビングで
「……ごめんね、湊。心配、かけて……私……」

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で張り詰めていた何かが、完全にぶっつりと切れた。

「……ふざけんな」

「……え?」

俺はギリッと奥歯を噛み締め、彼女の細い手を、痛くないように、けれど絶対に逃がさない強さでさらにきつく握りしめた。

「……なんで凪が謝るんだよ。……謝るなよ」

涙腺をコントロールすることができず、情けない声が喉の奥から漏れ出す。

「……俺が、気づけなかったせいだ」

「湊……」

「……毎日一緒にいんのに……凪がこんなになるまで、俺は何もできなかった。自分のことばっかで……全部、俺のせいだ……っ」

自分自身を深く呪うように、俺は再びベッドのシーツに額を擦り付けた。
震える肩を止めることもできず、ただひたすらに、己の無力さを痛感するしかなかった。

この時の俺の絶望が、そして自分の犯した罪の重さが、結果的に凪の『自己犠牲の呪縛』を解く決定的なきっかけになったのだと知るのは、もう少しだけ先の話だ。

今はただ、この命を繋ぎ止めてくれた温かい手を、俺はすがりつくように握りしめ続けることしかできなかった。
< 407 / 628 >

この作品をシェア

pagetop