アンコールはリビングで

Special track 5.5 決意の十字架

1. 見えない壁と、境界線のこちら側

白いベッドの上で静かな寝息を立てる凪の、少しだけ温もりが戻ってきた左手を両手で包み込みながら、俺はギリッと奥歯を噛み締めた。

『発見がもう少し遅れていれば、過労死の一歩手前だったと言っても過言ではありません』

先ほどの医師の残酷な宣告が、頭の中で何度も何度もエコーしている。

過労死の、一歩手前。
俺が、彼女をそこまで追い詰めたのだ。

悲鳴が聞こえていなかったわけじゃない。
彼女の危うさに気づきながらも、自分の忙しさを盾にして「この山場を越えるまでは大丈夫だろう」と高を括った。

その俺の身勝手で最悪な判断ミスが、彼女の命を削ったのだ。

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