アンコールはリビングで
電話が切れた後も、俺はしばらく床に突っ伏したまま動けなかった。

『ありがとう』。

その言葉が、頭の中で何度も何度も反響する。
俺は声を殺して、誰もいない深夜の非常階段で、ただ自分の無力さに打ちひしがれて泣いた。

愛する女の手続き一つできない「ただの彼氏」であること。

彼女の両親に、こんな悲しい声で感謝を言わせてしまったこと。

俺の人生で、これほどまでに己の弱さと立場の脆さを呪った夜はなかった。

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