アンコールはリビングで
4. 資格のない夜

どれくらいそこでうずくまっていただろうか。

俺は赤く腫れた目を乱暴に手の甲で拭い、立ち上がると、急いで凪のいる病室へと戻った。

パイプ椅子に腰を下ろし、俺は再び、点滴の針が刺さっていない方の彼女の左手を、両手でそっと包み込んだ。
ほんの少しだけ温もりが戻ってきているその細い手に触れると、またボロボロと情けない涙が溢れてきそうになる。

俺は、彼女の左手……その薬指の付け根を、親指でそっと撫でた。
ここにはまだ、何の約束の証もない。

(……二度と、あんな思いはしたくない)

俺の人生の『聖域』である彼女が、俺の知らないところで壊れていく恐怖。

そして、彼女の両親に、あんな震える声で『ありがとう』と言わせてしまった後悔。

< 415 / 638 >

この作品をシェア

pagetop