アンコールはリビングで
――ガチャリ。

玄関の方から、ドアが開く音が聞こえた。

「ただいま。湊、起きてるかな……体調、どう?」

廊下から聞こえてくる、俺の身体を心配してくれる、世界で一番大好きな声。

「……おう、起きてるよ。おかえり、凪」

俺はエプロンを外しながら、玄関に通じる廊下のドアを開けた。

靴を脱ぐ彼女の姿を見た瞬間、胸の奥にぽっかりと空いていた穴が、温かいもので満たされていくのを感じる。

「わっ、いい匂い……! 湊、もしかしてご飯作ってくれたの?」

「おう。俺特製の卵とじうどん。……冷める前に、早く食おうぜ」

凪はぱぁっと顔をほころばせ、心底嬉しそうに俺を見上げた。

「病み上がりなのに……用意してくれてありがとう。手洗ってくるね」

幸せを噛み締めるように微笑んで洗面所へ向かう彼女の後ろ姿を見つめながら、俺はふっと口角を上げた。

来週末から始まる、二人きりの逃避行。

日常から抜け出して、満開の紫の空の下で、俺は彼女にありったけの愛を伝えよう。

出汁の湯気が立ち上るダイニングテーブルで、俺たちは幸せな来週末の旅行の幕開けを、静かに待ちわびていた。
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