アンコールはリビングで
歩き疲れた俺たちは、併設されているカフェで一息ついた後、お土産のショップへと足を運んだ。

「あ、これ、無添加の葡萄ジャムだって。朝のヨーグルトに入れたら、すごく美味しそうじゃない?」

瓶を手に取り、嬉しそうに俺に見せてくる凪。
その『二人の朝の食卓』を前提にした言葉の選び方が、どうしようもなく俺の胸を温かくする。

「いいな、それ。じゃあ、このノンアルコールのスパークリングワインも買おうぜ」

「えっ、湊はお酒飲めるのに? 珍しいね」

「いや。これは、凪が飲めるやつ。……普段、仕事頑張った日とかの、二人での『ご褒美乾杯用』な」

「……ふふっ。いいね、それ。買っちゃおう」

彼女は目を細めて優しく笑い、二つの瓶を大事そうにカゴの中に入れた。

時計の針は、午後4時を回ろうとしていた。
傾き始めた太陽が、空を少しずつオレンジ色に染め始めている。

「……さて。それじゃあ、そろそろ行くか」

「行くって……どこに? 宿に向かうの?」

不思議そうに首を傾げる凪の荷物を持ち、俺は「着いてからのお楽しみ」とだけ言って、彼女の手をしっかりと握った。

(……待ってろよ。これからが、今日の本番だ)

俺の胸の奥底で、一年間ずっと温め続けていた『秘密のメモ』。

その答え合わせをするための、奇蹟の景色が待つ場所へ。

紫に染まる夜の約束を果たすため、俺たちは再び、夕暮れの中へと車を走らせた。
< 463 / 691 >

この作品をシェア

pagetop