アンコールはリビングで
「お、おい、あんま急に動くな。はぐれるだろ」

「あ……ご、ごめん。綺麗すぎて、つい……」

俺の胸にすっぽりと収まる形で歩きながら、凪は恥ずかしそうに両手で自分の頬を包み込んだ。

誰かにぶつからないようにという口実もあるが、本音を言えば、ただ俺がこうしてくっついていたいだけだ。

「……ちょうど、ライトアップが始まる時間だな」

俺が空を見上げて呟いた直後だった。
園内に設置された無数の照明が、一斉に柔らかな光を放ち始めた。

「あっ……!」

さっきまで自然光の下で優しげに揺れていた藤棚が、ライトに照らされて、暗闇の中に妖艶に、そして劇的に浮かび上がった。

池の水面にもその紫が鏡のように反射し、まるでこの世のものとは思えない幻想的な光景が広がっている。

「……綺麗……」

凪は言葉を失ったように、ただ瞬きも忘れてその景色に見入っていた。

紫色の光に照らされた彼女の横顔は、俺が今まで見てきたどんな景色よりもずっと綺麗だ。

大きく見開かれたその潤んだ瞳の中には、ライトアップされた無数の藤の花がキラキラと鮮やかに映り込んでいる。

その美しさに、俺は完全に目を奪われていた。

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