アンコールはリビングで
「わっ……湊?」

「……狭い方が、落ち着くだろ」

俺の胸板に背中を預ける形になった彼女の肩を、後ろからすっぽりと抱きしめる。

お湯の熱さと、直接肌に触れる彼女の滑らかな体温。
ヒノキの香りと、彼女のうなじから香る微かなシャンプーの匂いが混ざり合い、頭の芯がクラクラと痺れるようだった。

「……こうやって、二人でただぼーっとすんの、最高だな」

「うん……。時間、止まっちゃえばいいのにね」

俺の腕の中で、凪がポツリと本音をこぼす。

ここ数週間、プレッシャーと疲労で張り詰めていた俺の神経が、彼女の体温を通してゆっくりと解けていくのが分かった。

島崎さんが「休養してこい」と言ってくれた意味が、今なら痛いほど理解できる。

俺がこれからの過酷なツアーを走り抜けるためには、ただ身体を休めるだけでなく、こうして彼女の存在を全身で感じて、心を完全に満たす時間が必要不可欠だったのだ。

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