アンコールはリビングで
「いつもギリギリに出社してくるのに、今日は早いんだね?」

「そうなの。今日は朝イチでクライアントと会議でさ。その後は直行で現場だよー……ああ、何もトラブルないと良いな……凪も祈ってて」

「お疲れ様。分かるわ……実際に行ってみないと、図面通りにいかない想定外のことがあったりするもんね。無事に終わるように祈ってる。ファイト!」

いまだに現場ディレクターとして第一線で戦っている理紗を労いながら、私は自分のマグカップにドリップバッグをセットした。

「あー……しかも今日の現場、梅田さんだ……。あのおじちゃん、職人としての腕は完璧なんだけど、かなり気難しくてさ。なかなかコミュニケーション取るのが難しいんだよねぇ……。ねえ、確か凪は現場時代、梅田さんと仲良かったよね?」

「梅田さんかあ。頑固な職人さんに見えるけど、めちゃめちゃお孫さん大好きな、優しいおじいちゃんなのよ。だから、お孫さんの話振ってあげると、すぐ心開いてくれるはず。『同期の水沢が、幸(さち)ちゃん、元気にしてますか?って言ってました』って、話しかけてみてよ」

「おおっ、女神はここにいた……! 凪、ありがと! その切り口で話してみるわ」

「うん。理紗なら大丈夫。絶対に梅田さんといい現場作れるよ」

私は笑顔でそう答えながら、マグカップに細いお湯をゆっくりと注ぎ始めた。

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