アンコールはリビングで
「早瀬くん、お疲れ様。」

マネージャーの島崎さんがペットボトルの水を渡してくれた。

「ありがとう。……今、何時ですか?」

「18時半を過ぎたところだよ。今日はもう上がりで大丈夫。」

18時半。
彼はふと表情を緩め、スマホの画面をタップした。

昼に来ていた凪からの『残業になるかも』というメッセージ。
それ以降、連絡はない。

(……まだ戦ってんのかよ、あいつ)

眉間にわずかな皺が寄る。

彼は窓の外の夜景を見つめた。
きらびやかな東京の街。この光の一つ一つの下で、凪もまた、誰かのために頭を下げ、働いているのだろう。

「……帰ります」

「え? もう? まだ打ち上げが……」

「すみません、喉のケアをしたいので。……失礼します」

彼は爽やかに、しかし有無を言わせぬ笑顔で断ると、素早く荷物をまとめた。

スイッチをオフにする。
アーティスト「早瀬湊」から、ただの「湊」へ戻る時間だ。

「お疲れ様でした!」

スタッフに見送られ、彼はスタジオを後にした。
その足取りは、心なしか急いでいるように見えた。
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