アンコールはリビングで
「早瀬さん。次は、もっと力を抜いて。……そう、着飾ったものを全部脱ぎ捨てるような、無防備な感じでいきましょう」

川澄さんの指示に、俺はシャツの第二ボタンを無造作に外し、首筋を露わにした。

熱で苦しい呼吸が、少しだけ楽になる。
セットされていた髪は汗で少し濡れ、前髪がアンニュイに目元へと落ちてくる。

俺はカメラのレンズを見つめながら、その奥にいる、俺の帰りを待っているたった一人の顔を思い浮かべていた。

彼女の体温。
彼女の匂い。

(……早く、帰りたい……)

飾る余裕なんて、とうになかった。
ただ、剥き出しの命の熱と、彼女への深い渇望だけが、俺の瞳の奥で強烈な光を放っていた。

――カシャッ。

「……っ! 最高です、早瀬さん……! 今の表情、完璧でした!!」

スタジオ内に、川澄さんの興奮した声が響き渡った。

その瞬間、俺の中で張り詰めていた糸が、プツンと切れた。

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