アンコールはリビングで
時計を見ると、もう22時になろうとしていた。

昼休み、凪から『いつでも特等席、空けて待ってるから』というメッセージが来ていたのを思い出す。
俺の体調の悪さを察して、心配してくれているのだ。

(……だめだ。あいつの前でだけは……絶対に、倒れちゃだめだ)

去年の夏。
限界まで無理をした彼女が、玄関で崩れ落ちた時の、あの心臓が凍りつくような恐怖。

あんな絶望を、俺が凪に味わわせるわけにはいかないのだ。

エレベーターに乗り、自分の部屋の階で降りる。
玄関のドアノブに手をかけた瞬間、これまでの人生で感じたことのないほどの激しい悪寒と目眩が俺を襲った。

――ガチャリ。

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