アンコールはリビングで
2. 焦燥のメトロノーム
「――早瀬さん。ここの『Melt』のイントロ部分ですが、照明はピンスポット一つで落として、ベースの入りに合わせて一気に全体をアンバーに染める演出でいかがでしょうか」
「……いや、そうするとサビの爆発力が薄れますね。ピンスポットは僕じゃなく、あえて少しズラした位置に落として、影だけを浮かび上がらせてください。光が当たるのは、僕がギターを置いた瞬間だけで大丈夫です。」
「なるほど……! そっちの方が、曲の『境界線が溶ける』というテーマに合ってますね! さすがです、早瀬さん!」
同窓会当日の5月上旬、土曜日の夜。
都内のレコード会社、最上階の広い会議室。
6月から始まる全国ツアーの総合演出を決める重要な打ち合わせの席で、俺は完璧な『アーティスト・早瀬湊』の顔を貼り付け、スタッフからの提案に的確な指示を出し続けていた。
頭の回転は、自分でも恐ろしいほどクリアだった。
音響、照明、曲の繋ぎ、MCのタイミング。
本来なら数時間はかかるはずの緻密なすり合わせを、俺は天才的な直感と圧倒的な決断力で、次々と捌いていく。
スタッフたちは俺のクリエイティブなアイデアに感嘆の声を上げ、会議は予定より遥かに早いペースで進んでいた。
……だが。
俺の頭の半分――いや、八割は、目の前のツアー資料ではなく、全く別の場所にあった。
「――早瀬さん。ここの『Melt』のイントロ部分ですが、照明はピンスポット一つで落として、ベースの入りに合わせて一気に全体をアンバーに染める演出でいかがでしょうか」
「……いや、そうするとサビの爆発力が薄れますね。ピンスポットは僕じゃなく、あえて少しズラした位置に落として、影だけを浮かび上がらせてください。光が当たるのは、僕がギターを置いた瞬間だけで大丈夫です。」
「なるほど……! そっちの方が、曲の『境界線が溶ける』というテーマに合ってますね! さすがです、早瀬さん!」
同窓会当日の5月上旬、土曜日の夜。
都内のレコード会社、最上階の広い会議室。
6月から始まる全国ツアーの総合演出を決める重要な打ち合わせの席で、俺は完璧な『アーティスト・早瀬湊』の顔を貼り付け、スタッフからの提案に的確な指示を出し続けていた。
頭の回転は、自分でも恐ろしいほどクリアだった。
音響、照明、曲の繋ぎ、MCのタイミング。
本来なら数時間はかかるはずの緻密なすり合わせを、俺は天才的な直感と圧倒的な決断力で、次々と捌いていく。
スタッフたちは俺のクリエイティブなアイデアに感嘆の声を上げ、会議は予定より遥かに早いペースで進んでいた。
……だが。
俺の頭の半分――いや、八割は、目の前のツアー資料ではなく、全く別の場所にあった。