アンコールはリビングで
(……今、19時半か)

テーブルの下で組んだ手。
その指先で、俺は誰にも気づかれないように、一定のリズムで自分の太ももをトントンと叩き続けていた。

焦燥感を刻む、見えないメロノーム。
俺の脳裏を占めているのは、数時間前、あのリビングから出て行った凪の姿だ。

『じゃあ、行ってくるね。後で六本木で!』

玄関で振り返った彼女は、とんでもなく綺麗だった。

ネイビーの繊細なレースがあしらわれたドレス。
少しだけ透ける腕と背中のライン。丁寧に巻かれた髪と、少しだけ大人っぽいメイク。

あのドレスは、俺が一緒に見立てて買ったものだ。
凪の華奢な身体に絶対に似合うと確信して選んだが、まさかあそこまで破壊力があるとは思わなかった。

綺麗だ。
マジで、誰の目にも触れさせたくないくらい、綺麗だった。

あのまま玄関に押し倒して、ドレスごと俺の匂いでめちゃくちゃにして、一歩も外に出られないようにしてやろうかと、本気で思ったくらいだ。

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