アンコールはリビングで
3. 独占欲のグラス

「み、湊……、あの……」

男が去った後、俺の腕の中で、凪が恐る恐る見上げてきた。
ちゃんと説明しなきゃ、という焦りが彼女の瞳から伝わってくる。

「……行くぞ」

「あっ、待って、湊っ」

俺は何も言わず、彼女の手首――さっきあの男に掴まれていた部分を、痛くないように、けれど絶対に逃がさない強さで掴み、足早に歩き出した。

向かったのは、予定通り、密かに予約しておいた五つ星ホテルの最上階にあるラウンジバー。

照明が極限まで落とされ、東京タワーと夜景が一望できる、他人の視線が一切届かない奥のプライベートブースだ。

「……湊、怒ってる……?」

ふかふかのソファに並んで座り、注文したカクテルが運ばれてきても、俺は一言も発さずにグラスを見つめていた。

沈黙に耐えきれなくなったのか、凪が俺の袖をちょこんと引っ張る。

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