アンコールはリビングで
「……せっかくのデートなのに、引いたよな。……マジで、ダサすぎる」

「……ふふっ」

突然、隣から小さく笑い声が聞こえた。
顔を覆っていた指の隙間から見ると、凪が呆れたような、けれどどこまでも嬉しそうに目を細めて俺を見つめていた。

「なに笑ってんだよ」

「だって。あの余裕たっぷりの湊が、私のためにそんなに嫉妬して、やきもち焼いてくれてたなんて思わなくて」

凪はそっと身を乗り出し、俺の顔を覆っていた両手首を優しく掴んで下ろさせた。

「……ごめんね、嫌な思いさせて。でも……湊が迎えに来てくれて、あんな風に助けてくれて、すっごくかっこよかったよ」

「……」

「それに、私が綺麗にしてきたのは、全部湊のためなんだから。……他の誰に見られても、私の隣の特等席は、湊だけのものだよ」

彼女の甘く優しい声と、俺を見つめる真っ直ぐな瞳。
その言葉が、さっきまで荒れ狂っていた俺の中の黒いマグマを、嘘みたいに溶かして、甘い熱へと変えていく。

< 534 / 796 >

この作品をシェア

pagetop