アンコールはリビングで
「結論から申し上げます。この記事の掲載は、見送っていただきます」

『……ははっ、島崎さん。いくらステラさんでも、それは無理な相談ですよ。早瀬湊の初スキャンダル、しかも同棲発覚となれば、うちの部数も桁違いに跳ね上がりますからね』

電話口から聞こえる下卑た笑い声に、俺は表情ひとつ変えずに耳を傾ける。

『事務所の圧力で揉み消せる時代じゃないことくらい、ご存知でしょう?』

「圧力ではありません。ビジネスの提案(バーター)をしているんです」

俺は手すりに寄りかかりながら、淡々と、しかし相手の逃げ道を完全に塞ぐように言葉を紡いだ。

「黒田さん。早瀬の彼女の件は、我々事務所もデビュー前から完全に把握しています。彼はアイドルではありませんから、いずれ適切なタイミングで公表する予定です」

俺はわざと少しだけ間を空け、相手の反応を窺う。

「……今、その不鮮明な後ろ姿とこじつけの記事を出して、一時の部数を稼ぐのも結構ですが……」

俺はここで一拍置き、声をさらに冷たく研ぎ澄ませた。

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