アンコールはリビングで
2. 音楽一筋の男と、見慣れぬ台本

「……だから、俺はミュージシャンだって何度も言ってるじゃないですか」

都内のステラミュージック本社、会議室。
テーブルの上に置かれた分厚い台本を指先で弾きながら、俺は深くため息をついた。

「分かってる。分かってるんだけど、この枠のプロデューサーが、どうしても早瀬湊のあの『色気と声』がこの役に必要だって、熱烈なオファーをくれてるんだよ」

対面で頭を抱えているのは、マネージャーの島崎さんだ。

デビュー以来、俺はあくまで『音楽』だけで勝負してきた。

そもそも俺は、チヤホヤされる芸能人や俳優になりたくてこの世界に入ったわけじゃない。

凪が「大好きだ」と泣いてくれた俺の歌と、この声。
それだけで勝負して、俺の音楽を世界に届けたくて、この道を選んだのだ。

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