アンコールはリビングで
「あの切ない顔の演技さ。……主人公の女優さんを見ながら、頭ん中ではずっと凪のこと考えてたんだわ」

「えっ……私?」

「そう。もし、凪が俺以外の男の手を取って、俺の前からいなくなったら……って想像したら、マジで吐きそうなくらい辛くてさ。それがそのまま画面に出ただけ」

彼の口から語られた、あの切ない演技の『本当の理由』。

ドラマの中の悲しい笑顔の裏に、私へのそんな重すぎる愛情が隠されていたなんて、視聴者の誰も知らないだろう。

「……俺さ、俳優やってみて分かったわ」

「なにが……?」

「俺はやっぱり、凪だけの『本命』でいい。あて馬なんて、ドラマの中だけで十分だわ」

湊は私の顎をクイッと持ち上げ、息もできないほど深く、溶けるように甘いキスを落とした。

唇が離れると、彼が意地悪く、けれどどこまでも熱を帯びた瞳で私を見つめ、首筋にそっと唇を這わせる。

「……んっ、みなと……っ」

「……他の男に目移りなんかさせねぇからな。凪は一生、俺だけ見てろ」

日本中を熱狂させている大スターの、世界で一番甘くて重い独占欲。

それを独り占めできるこのリビングの特等席は、やっぱり私だけの、特別な場所だった。
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