アンコールはリビングで
「そりゃそうだよ。毎日あんなに忙しいんだもん……。プレッシャーも、すごいよね」

俺を責めることもなく、ただ優しく肯定してくれる凪の声。

世間からは『天才』だの『カリスマ』だの、挙句の果てには『音楽の神様』などともてはやされているが、俺だってただの人間だ。

6月1日の新曲リリース。
それに続く、俺のキャリアにとって最大規模となる全国ツアー。
そして、30歳という節目の年齢。

関わっているスタッフの数も、動いている金も、期待しているファンの熱量も、過去の比じゃない。

絶対に失敗できないという重圧が、目に見えない巨大な鉛となって、毎日俺の肩にのしかかっていた。

「……凪がいてくれなかったら、俺、とっくに潰れてるかもしんねぇ」

「そんなことないよ。湊は強いもん。でも……私が湊の安心できる場所になれてるなら、すごく嬉しい」

凪が俺の背中に腕を回し、トントン、と子供を寝かしつけるような優しいリズムで叩いてくれる。

この体温があるから。
この『聖域』に帰ってこられるから、俺は明日も外の世界で戦うことができるのだ。

< 598 / 796 >

この作品をシェア

pagetop