アンコールはリビングで
「ほら湊、見てみろよ。……俺、そんなに子ども好きとかじゃなかったの知ってるだろ? でも、自分の子どもが生まれてみたらさ、信じられないくらいかわいいの」

向かいの席に座る6歳上の兄・澄(とおる)が、目尻をデロデロに下げながら、スマホの画面に映る赤ん坊の写真を俺に見せびらかしてくる。

31歳になり、大学病院で外科医として激務をこなしながらも、新米パパとしてすっかり骨抜きにされているらしい。

「はいはい、可愛いわね。あんたが来るまで、ずっとその写真見せられてたのよ、私」

呆れたように言いながら優雅にカクテルグラスを傾けているのは、4歳上の姉・泉(いずみ)だ。
今年で29歳になる彼女は、大手ローファームでゴリゴリに働く敏腕弁護士。

「姉貴、私は仕事に生きるとか言ってたよな? 婚約とか急じゃん。……なんだよ、お相手も同業の弁護士か。口喧嘩が凄そうな2人だな」

「失礼ね。……うん。でもね、出会っちゃったのよ。運命ってあるんだなって、私も驚いてるわ」

俺がからかうと、いつもは隙のない姉貴が少しだけ頬を染め、乙女のような顔をしてグラスを見つめた。

早瀬家の『傑作』と呼ばれる優秀な2人。
それぞれが自分の人生の新しいステージに進み、幸せそうに笑っている。

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