アンコールはリビングで
俺が黙り込んでいると、兄貴がふと、懐かしむように目を細めた。

「湊が10歳くらいの時だよな。俺が高校の時に始めて、すぐに挫折したアコギを持ってきてさ」

兄貴は昔を思い出すように、クスッと笑い声をこぼす。

「『お兄ちゃん、ギターの弾き方おしえて?』って……俺、あの時のこと鮮明に覚えてるわ。湊、可愛かったな〜!」

「……っ、いつの話してんだよ」

「それが今じゃこんな口悪く立派に大きくなって……また『お兄ちゃん』って呼んでいいんだぞ?」

兄貴はわざとらしくウルウルとした瞳と表情で俺を見てくる。

「はあ? いい年して呼ぶかよ……」

俺が顔を赤くしてそっぽを向くと、兄貴は「冷たいなぁ」と笑いながら、再び俺の頭にポンと手を置いた。

「……まあ、それは冗談だけど」

(いや、絶対本当は呼んでほしかった顔だろ、それ)

俺の心の中のツッコミなど気にも留めず、兄貴は感慨深げに息を吐き出した。

「あの頃からギターにのめり込んでた湊がな、ギター1本と歌で勝負か……。兄貴としては、感慨深すぎるわ」

そう言って優しく微笑む兄貴と、隣で目を細める姉貴。

優秀すぎる兄と姉。
俺は昔から、この2人の背中を追いかけ、コンプレックスを抱えながら生きてきたと思っていた。

でも、実はこの2人も、親の敷いたエリートというレールの上を走ることに、息苦しさを感じていたのだ。

だからこそ、そのレールをぶっ壊して夢を追う末っ子の俺が、羨ましくもあり、可愛くて仕方がなかったのだろう。

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