アンコールはリビングで
俺は踵を返し、廊下の突き当たりにある、父の書斎へと歩みを進める。

その重厚な木の扉の前で、俺は深く息を吸い込んだ。

昨日の夜、ホテルのラウンジで兄貴と姉貴が背中を叩いてくれた、あの力強い手のひらの感触を思い出す。

そして、ポケットの中で握りしめたスマホ――そこにある、凪からの『いってらっしゃい。大丈夫だよ、待ってるからね』というメッセージを、お守りのように心に刻む。

自分の足で歩くと決めた、一人の男として。

「……失礼します。湊です」

ノックを2回。
「入れ」という、低く威圧的な声が響く。

俺は覚悟を決めて、重たい扉を押し開けた。

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