アンコールはリビングで
「いえ。本日付で、白井不動産を退職してきました。……6月に、メジャーデビューが決まりました。これからは、音楽で生きていきます」
ピタ、と。
書類をめくる父の手が止まった。
書斎に、耳鳴りがするほどの重苦しい沈黙が落ちる。
チクタクと進むアンティークの時計の音だけが、やけに大きく響いていた。
「……そうか」
数十秒の沈黙の後。
ゆっくりと顔を上げた父の目には、かつてないほどの激しい怒りと、底知れない落胆の色が走っていた。
「せっかく入った最高峰の企業を、自ら棒に振るか。……音楽などという、不安定で食えない道楽のために」
低く、押し殺したような声。
だが、その奥底でマグマのように煮えたぎっている感情を、俺は痛いほど感じ取っていた。
「私がどれだけ苦労して、お前を『真っ当な道』に乗せたと思っている。……お前が14の時に紗希子が逝ってから、私がどれだけ……!」
ダンッ! と。
父が机を強く叩いた。
父の怒りの本質。
それは、『俺を立派に育て上げなければ、亡き妻・紗希子に顔向けできない』という、強烈な責任感と呪縛から来るものだった。
ピタ、と。
書類をめくる父の手が止まった。
書斎に、耳鳴りがするほどの重苦しい沈黙が落ちる。
チクタクと進むアンティークの時計の音だけが、やけに大きく響いていた。
「……そうか」
数十秒の沈黙の後。
ゆっくりと顔を上げた父の目には、かつてないほどの激しい怒りと、底知れない落胆の色が走っていた。
「せっかく入った最高峰の企業を、自ら棒に振るか。……音楽などという、不安定で食えない道楽のために」
低く、押し殺したような声。
だが、その奥底でマグマのように煮えたぎっている感情を、俺は痛いほど感じ取っていた。
「私がどれだけ苦労して、お前を『真っ当な道』に乗せたと思っている。……お前が14の時に紗希子が逝ってから、私がどれだけ……!」
ダンッ! と。
父が机を強く叩いた。
父の怒りの本質。
それは、『俺を立派に育て上げなければ、亡き妻・紗希子に顔向けできない』という、強烈な責任感と呪縛から来るものだった。