アンコールはリビングで
14歳のあの日。

厳格なこの家の中で唯一のオアシスだった母が死んでから、不器用な父は、俺たち3人を社会的エリートに育て上げることだけを生きがいにして、その厳しさに拍車をかけてきたのだ。

「音楽などという泥水の中で、お前が一人で息をしていけると思っているのか! 真っ当に稼ぎ、自分の足で立つ……それがどれだけ厳しいことか、この家が与えた恵まれた環境を捨てるというのか!」

「分かっています。……でも、俺はこの家という環境にいて、ずっと息苦しかった」

「……なに?」

「父さんが、母さんへの責任感から俺たちを厳しく育ててくれたことは、頭では理解しています。でも……俺には、息継ぎをする場所がなかった」

俺の言葉に、父の顔が微かに歪んだ。一番痛いところを突かれたというように。

「でも今は……俺に『息継ぎの場所』をくれる人がいるんです」

俺の脳裏に、凪の優しく微笑む顔が浮かぶ。

「母さんが死んでから……ずっと息苦しかったこの家にはなかった、俺がただ呼吸をして、心から安心できる居場所です」

兄貴や姉貴のように器用に立ち回れず、父の過剰な厳しさを真正面からくらって育った俺にとって、この家は決して心安らぐ場所ではなかった。

母の死と共に失われた『陽だまりの温かさ』を、俺はずっと探し求めていたのだ。

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