アンコールはリビングで
「だから……この家にある俺の鎧は、すべて置いていきます」

父は、ギリッと奥歯を噛み締めた後、フンと鼻を鳴らして冷たく言い放った。

「……勝手にしろ」

「……」

「だがな。お前がその道楽の夢に破れて、泣きついて戻ってきた時……着るものがなくては困るだろうからな。そのスーツは、そのままにしておいてやる」

相変わらずの、嫌味な言い回し。

でも、俺には分かっていた。
『二度と敷居を跨ぐな』とは絶対に言わず、スーツを捨てずに置いておくことで、『帰ってくる場所』を不器用に残そうとしている。

それが、この威圧的な父なりの、酷く歪んだ愛情なのだということを。

「……戻りませんよ。絶対に」

俺は、自分への戒めも込めてはっきりと告げた。

「俺にはもう、帰る場所がありますから」

俺は深く、10秒以上頭を下げた後、踵を返した。

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